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「そういえば明日、泣いていたけど、なんだったの」

 猫に名前を付けた。ソマリと。彼の毛並みは薄汚れていたけれど、黒猫であったから、結局のところ汚れていなかった可能性もある。

「純潔だって、いつかは黄ばんでしまうのよ。だから泣くの」

 彼女はまた、白猫であった。白いから汚れが目立つ筈なのに、彼女は美しく、白く、夜の風景を通して見ても浮きだっている程だった。

 彼は煙草をその肉球で以て踏み消すと、歩き出した。彼女は黄ばみ始めていたけれど、彼は気にせず歩き続けた。

「朝に月が見えるとその日の夜はどこかで星が流れて、その星というのは天使の涙だってこと」

 彼は覚えておこうと思っていたけれど、今更思い出した所で何にも役にたたないブリキの玩具みたいでつまらなかった。

 彼女は死んでいた。が、彼は気付かずに歩き続けた。退屈が彼女を亡きものにして、嘘だけが彼を歩かせ続けた。

 惨めな死だった。退屈は笑っていた。嘘だけが悲しんでいた。彼は煙草をその肉球で以て踏み消して、再び歩き始めた。

「……」

 彼の名前はソマリというらしいが、これもまた全くの嘘であった。

 彼女の死体は朝に溶けこんでしまうほどに美しく、そして白くなっていった。