ア、秋5

 千種創一歌集「千夜曳獏」を何度も何度も読んでいる。

 余りの嫉妬に、書き溜めていた短歌全てを破いて、捨てた、苦しい。身が捩れるほどの、これほどの寂寥と嫉妬を覚えたのは、太宰治「駆込み訴え」を初めて読んだ、あの夜以来で、身の置き所が見つからない。

 

以下「千夜曳獏」より幾つか抜粋。

どれくらい登れば海が見えるのとあなたの声、鳥の声、汽笛

全部あって何もない、わかりますか 自由な孔雀は羽を展いて

蛍、千年後も光ってて 終電に向けてあなたの手を曳いている

波立たぬように心は凍ればいい 水底、息をしていろ鯰

飲みさしのシードル二本 悪魔だって悪魔に会えると嬉しいんだよ

あなたから借りた詩集のここからは付箋の色がかわる 秋かも

最後に買った花は何だろ。あなたには最期に花を買ってあげたい

たましいはもう直せない まな板に何度立てても転がる林檎

書けばどの一行だってあなたへと還ってしまう、彼岸に到る

洞窟のような心にこうもりが住んでてときおり出てってしまう

心が心を求めつつ 濁流に魚は閉じるまぶたを持たず

 定型で象られた、リズム破調。