春現10
真実が何一つない、嘘ばかり、嘘ばかりで、虚しい
言葉を掬いあげるのに、視界をわざわざ歪ませて、ぼくはこんなことがしたかったわけじゃない
感覚への疑念、嘘ばかりを書いていたら嘘の他には何一つなくなっていた
せつない暮らしのその最中、雨月物語を読んでいる、虚飾も過ぎれば幸福だ
田舎でひっそりと暮らしたい、ハ虫類をそだて本を読み作文をして夕方にはすこし散歩に出かける、光とは無縁の生活、丁寧な生活とは程遠くとも、それは
Twitterにあげたものを見返してふとサミしく感じる事がある、真実とは程遠い
あらゆるものが遠く、そしてあらゆるものが近い、心が浮いている、馴染めない身体、ひどくブルー
小説を書いていて現実から逃げつづけていた事を痛感する、思考ばかりを書き連ね、肝心の登場人物は画一的で特徴がなく、いわゆる箱庭、君とぼくのことばかり、書いている
きみの首からはメロンのオーデコロンの匂いがし、それはとても好い匂いだった。ぼくはきみのことが大好きになった。もはやきみと二人でなければ生きてゆける気はしなかった。
ほら、これもぼくときみの話、いや、今となっては、ぼくだけの知る話
〈了〉