死にゆく鯉4

 閉じ込められていた。夢から醒めない。夢遊病? だったら好いけれど、きっと、そうではなさそうだし。

「試しにビンタ、してみよっか?」

 赤らんだ頬に、潤んだ瞳。ここ数年、何をしなくとも、涙、溢れちゃうや。

「痛みって、食べるものなの? 飲み込むものなの?」

 あーあ。また、朝焼け。夕焼けと朝焼けと、それから胸焼け。二日酔いは近頃はしていないけれど、それは指名がないだけって話だし。

「空を見上げたら、飛行機雲が霞んで消えゆく様が見れちゃって、その時流した涙だけは本当だって、そう思ってたのになあ。」

 胃薬を三袋。イヤホンのボリュームは最大で、ブロンは三十二錠。歴史を問われて、轢死が頭に思い浮かんだ。そりゃあ、指名、付かないよなあって。

「言葉だけは綺麗。蝉の抜け殻みたいだ。」

 あなたに恋をした。恋だけ、恋だけをした。憧れていたのかもしれない。

 言葉に重力が宿った。時間も宿った。眠りたい、眠れない、騒音、喧騒、熱帯魚が死んで腐って嫌な匂い。

「あなたの側にいれれば、ぼく、それだけで。」

「うん。」

「音楽、聴く?」

「うん。」

 ヒビ割れてゆく。日々が、破れてゆく。

「キザな言葉、醜い言葉、緩やかな死と眩しすぎる希望と、コインランドリーに充満する柔軟剤の匂い、どれが本当で、どれが嘘?」

 おやすみなさい。おはようございます。三百六十五かける二十五の積み重ね、猫が鳴く、ぼくが失く、眼痛、血栓、きみがすき。